【MTG公式】記事情報:デヴ ダイアリー: ズルゴ、雷の布告


2025年4月、『MTGアリーナ』に登場した新カード「雷の布告、ズルゴ」は、ゲームエンジンの根幹を揺るがすような特異な能力「このクリーチャーは生け贄に捧げられない」を搭載しています。
単なる一文のように見えるこの効果ですが、実装には多くの複雑な処理と試行錯誤が必要でした。
今回は、MTGアリーナ開発チームがどのようにこの効果を正しく実装したか、その舞台裏を紹介します。
要点解説
● 「生け贄にできない」の複雑さ
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この効果は、生け贄を強制・選択・コストとして使うすべての状況に影響。
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たとえば、「投げ飛ばし」のコストに選べない、「ゴブリンの砲撃」でも対象にならない。
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プレイヤーの手札で該当カードが「使用可能」と表示されないよう、UIにも影響。
● MTGアリーナのCLIPSルールと「To-Doリスト」
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MTGアリーナでは、カード処理は「やるべきこと(To-Doリスト)」として内部的に記録される。
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例えば「最後の贈り物の運び手」が「全クリーチャーを生け贄にする」場合、そのリストから「生け贄にできない」対象は自動で削除される。
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この一連の動作を担うのが、CLIPSルールというMTGアリーナ独自の仕組み。
● テストのための「ASUPカード」の活用
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「ズルゴ」は通常の手順では再現しづらいため、デバッグ専用カード「ASUP_CantBeSacrificed」を作成。
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これにより、想定されるすべてのケースを再現・自動化して検証。
● 想定外のバグとその原因
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QA(品質保証)チームが「ズルゴ」と「ゴブリンの砲撃」の組み合わせで、本来選べないはずのトークンが選べる現象を発見。
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原因は、「フェーズ移行時にレイヤー効果を再計算していなかった」こと。
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「ズルゴ」の「エンドステップのみ有効な能力」という新しい設計が、従来のエンジン仕様と衝突。
● 修正と再構築
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新たに「フェーズまたはステップ中にのみ能力を付与する」CLIPSルールを導入し、該当ステップでのみレイヤーを再計算。
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しかし、それでも一部動作しないケースが発生。最終的な原因は「CLIPSのアジェンダ(動作順序)」の不整合。
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正しい順番で「能力を与える」→「資格を生成する」よう修正し、完全動作を実現。
● 仕様整理と未来への応用
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「生け贄にできない」という効果は今後も登場する可能性があり、今回の対応は再利用性の高いフレームワークとなった。
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他にも「このターン中のみ生け贄不可」といった応用がしやすくなる設計に。
まとめ
一見シンプルに見える「生け贄にできない」という能力の実装は、実際には非常に高度なプログラム制御と膨大なテストを必要としました。
「雷の布告、ズルゴ」はMTGアリーナにおける初の「生け贄不可」実装というだけでなく、特定フェーズでのみ適用される能力という新たな挑戦でもありました。
このカードの登場により、今後はより繊細な効果や一時的な能力付与の再現が可能になり、MTGアリーナの表現力がさらに広がることが期待されます。
裏方の技術に支えられたMagicの深さと、それを再現する開発者たちの奮闘に拍手を送りつつ、私たちも安心して「ズルゴ」の戦場を見守ることができそうです。
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